英語改革の2つのベクトル
知人に小学校の先生がいるが、新しい学習指導要領の施行に伴って、英語を子どもたちに指導することに多少の不安を抱いているようだ。それもそのはずで、普段使用しない未知の言語を突然に指導しろと言われても難しい。そもそも教職課程に「英語」はないし、採用試験の英語は一般教養レベルなのだ。
そこで、文部科学省では、2018年度から小学校から順に段階的に条件整備を整えようとしている。学習指導要領の改訂に伴って提示される育成すべき資質・能力の3つの柱として、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性」の3つが掲げられた。ここに「確かな学力」「豊かな心」「健やかな健康」の育成が総合的かつ構造的に組み合わさる。小学校であれば、中学年に、「外国語活動」で「聞くこと」「話すこと[やり取り]」「話すこと[発表]」、高学年にはこの3つに「読むこと」「話すこと」を加えた5領域を指導することになるのだ。
ここで確認しておきたいことがある。本来の英語の学習の趣旨とは何か。もちろん文化や論理的思考力の要請等も必要だ。しかし、本来の語学学習の目的は「コミュニケーションのツール」である。使うための実践的な「英語」だ。そのための土台として小学校から段階的かつ意図的・計画的に学習指導が求められている。そこには、小学校の英語学習は社会貢献というボトムアップのベクトルが働いているのである。
一方で、大学入試改革もまったなしの状況にある。文法とインプット型に特化されたきた「受験英語」は、バランスの取れた英語4技能の評価試験に舵を切ることになる。つまり、学校の英語教育にいてはトップダウン式のベクトルも存在するのである。だからここ10年程度が正念場になるだろう。2つの異なる性質を持つベクトルが交わり、化学変化を起こしたときに、本来のあるべき英語教育が具現化されてくるのである。
※参考文献
日本英語検定協会、(2017 4)、『英語情報 2017年 春号』
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